御所浦の伝馬舟

~ゆっくりと凪いだ海をすすむ舟~

御所浦の最高峰、標高442mの「烏峠」は360°の視界が開ける絶好の眺望スポット。 まるで空を映す鏡に大小の島が浮かんでいるかのような、不知火海の眺めが一望できます。


■伝馬舟とは櫓や櫂などで操船する小型の和船。御所浦では、昭和40 年代ごろまで漁業や集落間の移動や輸送などに盛んに利用されていましたが、今ではその姿を見かけることも少なくなりました。

■御所浦ではじまった 小さな櫓こぎの舟“伝馬船”の再生 伝馬船再生の仕掛け人、三宅啓雅さん(昭和29年生まれ)は、平成18年に御所浦町町役場を早期退職し、“御所浦アイランドツーリズム推進協議会”のひとりとして事務局に携わってきました。 御所浦アイランドツーリズム協議会は、島民と協力しながら、漁師や農家のお宅に修学旅行の子どもたちが泊まる“民泊”などを行う団体です。

協議会での活動のなか、三宅さんは、御所浦だからこそできる観光のあり方を模索し、御所浦にとって何が大切なのかをずっと考えてきました。 そしてある日、自分の原風景であった伝馬船のある生活を思い出します。三宅さんは「櫓こぎを失くしてはいけない」という思いを持ち、御所浦の伝馬船再生が始まります。

■伝馬船再生へ向けて 伝馬船の再生へ向け、使われずボロボロになっていた伝馬船を修繕し、御所浦の大人達が地元の子どもに櫓こぎを教える教室を開催したり、観光で訪れた人たちへの櫓こぎ体験を実施するなど、活動を展開していきます。そして平成19年には木造伝馬船の新造も行うことになったのです。 「“舟かくし”と呼ばれる奥行きのある入江は、波もなく、船舶の往来も少なく、安全に櫓こぎの体験ができます。これをきっかけに、天草の子ども達は誰でも櫓こぎができるよ、と言われるようになったらうれしいです」と三宅さん。 今、“舟かくし”の入り江のそばには2艘の木造伝馬船を含め、4そうの伝馬船が浮かんでいます。

  • 三宅啓雅氏

  • 木造にFRP(繊維強化プラスチック)をまいて修繕し、使用している伝馬船もある。FRPの技術が広がり、木造船は姿を消した。写真は造船所で修繕中の古い伝馬船。



■三宅さんにとっての伝馬船 「小学校低学年くらいの時だと思いますが、越地から江ノ口・外平の畑に家族で芋ほりに行く時、伝馬船で行きました。 植え付けから収穫まで。仲間のうちの、誰かが持っている伝馬船を借りて行くのです。あの舟は使っていい、というような互いの了解があったのだと思います。30年くらい前までは、イカつけにも使っていました」と三宅さん。
けれど、子どもの時はただ遊んでいただけで、別段思い入れもなかったと言います。
その後、学生時代には御所浦を出て京都で過ごした三宅さん。「学生生活を終え、京都から御所浦に帰ってきた時、伝馬船っていいなと思って」
しかし、そのときにはすでに御所浦の伝馬船は数えるほどに減っていたのでした。また、港も他の船が速くて大きくて、とても伝馬船をこげるような状況ではなくなっていました。

それでも三宅さんは、よく伝馬船に自分の子どもをのせて、養殖のイカダまで魚釣りをしに櫓をこいで行っていたと言います。

「近所の子どもも4、5人のせて。周りの船を気にしながら前島を出て。船が通ったり波が立つときは、舟を波に直角に立てるんですよ。養殖場までたどり着けば他の船を気にしないで大丈夫でした。」と思い出を語る三宅さんには大きな夢があります。

「いずれは御所浦で櫓こぎの世界大会を開きたい」

御所浦の原風景からはじまった、伝馬船へかける思いはますます広がります。


新造の伝馬舟の進水式の様子